なぜ日本の食料自給率は低いままなのだろうか。東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんは「戦後アメリカが進めた食生活改変政策は、日本人の伝統的な食文化を一変した。伝統的なコメ食を減らしたことで、日本の農業は力を失い、自給率が低下していった」という――。(第1回)

为什么日本的粮食自给率一直很低?东京大学研究生院教授铃木宣弘说:“战后美国推行的饮食习惯改变政策,彻底改变了日本人的传统饮食文化。由于减少了传统的大米饮食,日本的农业失去了动力,自给率下降了”。(第一部分)

※本稿は、鈴木宣弘『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

※本文是铃木宣弘《世界上最先挨饿的是日本》(讲谈社+α新书)的一部分重新编辑而成。

■なぜ日本人は食料自給率を気にしないのか

■为什么日本人不关心粮食自给率?

日本の食料自給率は、2020年度で約37%と、きわめて低い水準にある。

在2020年,日本的粮食自给率约为37% ,处于非常低的水平。

しかも、これはカロリーベースであり、本当の自給率はもっと低い。日本でつくられる農産物は、種やヒナを輸入に頼っているからだ。

而且,这是根据卡路里计算的,真正的自给自足率更低。因为日本农产品的种子和幼鸡都依赖进口。

日本という国の規模、人口、歴史などを考えると、これは異常な低水準と言わざるを得ない。

考虑到日本国家的规模、人口和历史,这不得不说是一个异常低的水平。

しかし、不思議なことに、日本ではあまり懸念する声が聞かれない。

但奇怪的是,在日本并没有听到多少担忧的声音。

多くの国民は、「食料自給率が低いのは仕方ない」と思っているのではないだろうか。

许多人可能会认为“粮食自给率低是无可奈何的事”。

日本は島国で、国土面積が限られている。農地の面積も狭くならざるを得ない。そのため、狭い耕地を少人数で耕(たがや)す、小規模で非効率な農業をやらざるを得ない。

日本是一个岛国,国土面积有限。农田的面积也不得不缩小。因此,我们不得不从事小规模、低效率的农业,即由少数人耕种小面积的可耕地。
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しかも、現代の日本人は、肉やパンを好んで食べるが、食肉生産や小麦生産は、日本より海外のほうが大規模で効率がいいので、輸入が増えるのは仕方がない。

而且,现代日本人喜欢吃肉和面包,但国外的肉类和小麦生产规模和效率都比日本高,所以进口增加也是没办法的事。

と、およそこういった考えが、行き渡っているのではないだろうか。

这样的想法大概普遍存在了吧。

しかしながら、こういった考えは、「誤解」に過ぎない。

然而,这些想法只不过是“误解”而已。
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食料自給率が下がった最大の原因は、貿易自由化と食生活改変政策にある。

粮食自给率下降的主要原因在于,贸易自由化和改变饮食习惯的政策。

自動車などの関税撤廃を勝ち取るために、日本の農業は、農産物の関税引き下げと、輸入枠の設定を強要されてきた。

为了争取取消汽车等关税,日本农业一直被迫降低农产品的关税并设定进口配额。

そこに、アメリカやヨーロッパが、輸出のための補助金をジャブジャブ出して、ダンピングを仕掛けてきたのだから、たまらない。

然而,美国和欧洲却通过提供大量的出口补贴来进行倾销,这实在让人难以忍受。

日本の農業は壊滅的な打撃を受けてしまったのである。

日本的农业因而遭受了毁灭性的打击。

■「米を食うとバカになる」という本が大ベストセラーに

■《吃大米会变笨》一书成为热门畅销书。
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第2次大戦後、米国は日本人の食生活を無理やり変えさせてまで、日本を米国産農産物の一大消費地に仕立てあげようとした。

二战后,美国强行改变日本人的饮食习惯,试图将日本变成美国农产品的一大消费地。
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そのために、さまざまな宣伝・情報工作も行われた。

为此,还开展了各种宣传和情报工作。

日本人にアメリカ産の小麦を売るために、「米を食うとバカになる」という主張が載った本を、「回し者」に書かせるということすらやった。

为了把美国小麦卖给日本人,甚至让“内奸”写了一本书,声称“吃大米会变笨”。

『頭脳 : 才能をひきだす処方箋』という本がそれである。

这本书名为《头脑:激发天赋的处方》。

食料難の戦後がようやく終わったころの1958年に出版されたこの本は、その後の日本の農業に、大きなダメージを与えることになった。

这本书于1958年出版,当时战后粮食短缺的局面刚刚结束,然而这本书对日本后来的农业造成了巨大的破坏。

いまでこそ、同書の存在はほとんど忘れ去られているが、当時は発売3年で50刷を超える大ベストセラーであり、日本社会に与えた影響は非常に大きかったのである。

现在这本书的存在几乎被遗忘了,但是当时这本书发行3年就超过了50次印刷,是一本很热门的畅销书,对日本社会产生了巨大的影响。

この『頭脳』という本には、「コメ食低能論」がまことしやかに書かれている。

在这本名为《头脑》的书中,“大米饮食低能论”写得煞有介事。

著者の林氏によると、日本人が欧米人に劣っているのは、主食のコメが原因なのだそうだ。

根据作者林氏的说法,日本人之所以不如欧美人,是因为主食是大米。

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「これはせめて子供の主食だけはパンにした方がよいということである。(中略)大人はもう、そういうことで育てられてしまったのであるから、あきらめよう。悪条件がかさなっているのだから、運命とあきらめよう。しかし、せめて子供たちの将来だけは、私どもとちがって、頭脳のよく働く、アメリカ人やソ連人と対等に話のできる子供に育ててやるのがほんとうである」(『頭脳』161~162ページ)
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“这意味着,至少孩子们的主食应该是面包。(中间省略)成年人已经在那样的环境中长大了,所以就算了。因为不利的条件叠加在一起,所以认命了。但是,至少在未来,我们的孩子应该被培养成和我们不同,头脑聪明,能够与美国人和苏联人平等对话,才是对的”(《头脑》第161-162页)

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この記述は、当然ながら、科学的根拠がまったくない「暴論」と言わざるを得ない。

这种记述,当然是毫无科学依据的“暴论”。

だが、著者の林氏が慶應大学名誉教授であったことも手助けしたのか、当時はこれが正しい学説としてまかり通ったのである。

然而,也许作者林氏是庆应大学的名誉教授,这在当时被认为是正确的学说。

■大手新聞のコラムが「コメ食否定論」

■各主流报纸专栏“大米饮食否定论”

その当時、さる有名な大新聞のコラムにも、「コメ食否定論」が堂々と掲載されていた。

当时,某知名报纸的专栏也堂而皇之地刊登了“大米饮食否定论”。

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「近年せっかくパンやメン類など粉食が普及しかけたのに、豊年の声につられて白米食に逆もどりするのでは、豊作も幸いとばかりはいえなくなる。としをとると米食に傾くものだが、親たちが自分の好みのままに次代の子供たちにまで米食のおつき合いをさせるのはよくない」
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“近年来,面包和面类等面食好不容易普及起来了,如果因为丰收的呼声而回到米饭,那么丰收就不能说是幸运了。上年的自然会倾向于吃米饭,但父母们不应该让他们的下一代遵循自己的喜好吃米饭”

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有名大学教授、名だたる大新聞がこぞってコメ食否定論を唱えていたのだから、日本社会への影響は非常に大きかっただろう。

有名的大学教授、有名的大报纸,都提出了否定大米饮食的论调,对日本社会的影响非常大。

■日本の食を変えた「洋食推進運動」

■改变日本饮食的“洋食推广运动”

当時は世界の農業生産力が高まっており、米国では小麦の生産過剰が問題となっていた。

当时世界农业生产力正在提高,美国小麦的产量过剩成为了问题。

そのため、米国は日本に余剰小麦を輸出しようとする。

因此,美国试图向日本出口过剩的小麦。

その売り込み戦略として展開されたのが、悪名高き「洋食推進運動」である。

作为这个目的而展开的推销战略,就是臭名昭著的“洋食推广运动”。

「日本人の食生活近代化」というスローガンのもとに、「栄養改善普及運動」や「粉食奨励運動」が日本各地で展開されることになった。

在“日本人饮食现代化”的口号下,“营养改善普及运动”和“面食奖励运动”在日本各地展开。

これらはまさに、欧米型食生活を「崇拝」し、和食を「排斥」する運動だった。

这些正是“崇拜”欧美式饮食,“排斥”日本饮食的运动。
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キッチンカーという調理台つきのバスが二十数台も用意され、それらが分担して都市部から農村部まで日本全国津々浦々を巡回し、パン食とフライパン料理などの試食会と講演会を行った。

准备了二十多辆带有料理台的大巴,他们分工负责,从城市到农村,在日本全国各地巡回,举行面包和平底锅料理等试吃会和演讲会。

前述の『頭脳』の著者、林氏も、この講演会にしばしば呼ばれていた。

前面提到的《头脑》的作者林氏,也经常被邀请参加这些演讲会。

こうした宣伝活動によって、本来は洋食に反対する立場のはずの農家の人々までが洗脳され、欧米型食生活を崇拝するようになってしまった。

这些宣传活动甚至给原本反对洋食的农民洗脑,使他们崇拜欧美式饮食。

■余ったコッペパンと、半分腐ったような脱脂粉乳の給食

■学校配餐是用吃剩的馅饼面包和半腐烂的脱脂奶粉。

日本人のように、これほど短期間のうちに、伝統的な食文化を捨てた民族は、世界史上でもほとんど例がないという。

在世界历史上,很少有像日本这样的民族在如此短的时间内放弃其传统饮食文化的例子。

それほど、この「洋食推進運動」は強烈なものだった。

这场“洋食推广运动”是如此强烈。

その結果、食のアメリカ化が一気に進み、学校給食でも、朝鮮戦争で余ったアメリカ産小麦のコッペパンと、牛ですら飲まない、半分腐ったような脱脂粉乳が出された。

结果就是食物美国化迅速发展,学校配餐,还有朝鲜战争剩余的美国小麦面包和连牛都不喝的,类似半腐烂的脱脂奶粉被拿了出来。

筆者はその給食を食べて育った世代で、逆にそれがきっかけで、アメリカの食がイヤになった。

笔者是吃着那种配餐长大的一代,反过来以此为契机,让我很讨厌美国的食物。

しかし、日本全体としては、「宣伝」の効果によって、伝統的なコメ中心の食文化が一変してしまった。

但是在整个日本,由于“宣传”的影响,传统的以大米为中心的饮食文化已经彻底改变了。
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その結果、このころから、我が国ではコメ消費量の減少が始まった。

结果,从这个时候开始,我们国家的大米消费量就开始减少了。
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消費量が減ると、コメの生産が過剰となり、水田の生産調整が行われはじめる。

如果消费量减少,大米产量就会过剩,稻田的生产开始调整了。

これをきっかけに、我が国の農業・農政が、国内で力を失っていったのである。

由此推动,我们国家的农业、农政在国内逐渐失去了权力。

■食を握れば日本を完全にコントロールできる

■掌握食物,就能完全控制日本

故宇沢(うざわ)弘文(ひろふみ)氏といえば、シカゴ大学などアメリカの大学で教鞭(きょうべん)を取り、「社会的共通資本」を提唱したことでも知られる、日本を代表する経済学者である。

已故的宇泽弘文先生曾在芝加哥大学等美国大学任教,是日本著名的经济学家,因提倡“社会共同资本”而闻名。
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その宇沢氏は、かつてアメリカの友人から、「米国の日本占領政策の2本柱は、①米国車を買わせる、②日本農業を米国農業と競争不能にして余剰農産物を買わせる」というものだと聞いたと述懐(じゅっかい)している。

宇泽先生回忆说,一个美国朋友曾告诉他,美国占领日本政策的两大支柱是:1、迫使日本人购买美国汽车;2、使日本农业不能和美国农业竞争,迫使日本人购买剩余的农产品。

その占領政策は、いまもなお続いている。

这项占领政策至今仍在继续。

それだけではなく、②に関してはより一層強化されているのではないだろうか。

不仅如此,第2点可能进一步强化了。

1973年、当時のバッツ農務長官は、「日本を脅迫するのなら、食料輸出を止めればいい」と豪語したという。

1973年,据说当时的美国农业部长布茨曾大放厥词:“如果要威胁日本,就停止粮食出口”。

また、アメリカのウィスコンシン州は農業が盛んな地域として知られているが、そのウィスコンシン大学のある教授は、農家の子弟向けの講義において、次のような趣旨の発言を行ったという。

此外,美国以农业闻名的威斯康星州,在威斯康星大学的一位教授在给农民子女的讲座中发表了如下言论。

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「食料は武器であり、標的は日本だ。直接食べる食料だけでなく、日本の畜産のエサ穀物を、アメリカが全部供給するように仕向ければ、アメリカは日本を完全にコントロールできる。これがうまくいけば、同じことを世界中に広げるのがアメリカの食料戦略となる。みなさんそのために頑張ってほしい」
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“食物是武器,目标是日本。如果美国可以不仅供应日本直接食用的粮食,还供应日本畜牧业的全部粮食,美国就能完全控制日本。如果一切顺利的话,美国的食品战略,就是把同样的事情扩展到世界各地。我希望你们都能为此而努力”

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このアメリカの国家戦略は戦後一貫して実行されてきた。

美国的这一国家战略战后一直在执行。

それによって、日本人の「食」は、じわじわとアメリカに握られていったのである。

于是,日本人的“饮食”就慢慢地被掌握在美国的手中了。

■アメリカで学んだ学生が帰国して新自由主義を広める

■在美国学习的学生回国后,传播新自由主义

アメリカが行ったもう一つの「洗脳」政策がある。それが、「留学生教育」だ。

美国还实行了另一项“洗脑”政策。这就是“留学生教育”。

アメリカは世界中から留学生を受け入れ、シカゴ学派的な市場原理主義経済学を彼らに叩き込んでは、母国に返していった。

美国接纳了来自世界各地的留学生,向他们灌输芝加哥学派式的市场原教旨主义经济学,然后再把他们送回自己的国家。

東京大学経済学部では、アメリカで博士号を取り、現地で助教をつとめたくらいの人物でなければ、教員として採用されないくらいだったという。

在东京大学经济学系,只有在美国获得博士学位并在那里担任助理教授的人才能被聘为教师。

そうした構造の中、アメリカで洗脳された人々が、日本に戻ってきては、一流大学で教え、市場原理主義の信奉者が増えていった。

在这种结构下,被美国洗脑的人们回到日本,在一流大学任教,这样信奉市场原教旨主义的人就越来越多了。

また、それらの人材が大企業や官庁の中にも入り込んで、徐々に力を持っていく。

同时,这些人才也进入大企业和政府部门,慢慢地拥有权力。

その結果、まるで寄生虫に頭を乗っ取られたカタツムリのように、日本政府がアメリカ流の新自由主義者たちに乗っ取られてしまった。

结果,就像一只被寄生虫接管了脑袋的蜗牛,日本政府被美国式的新自由主义者们接管了。
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規制改革が社会全体の利益になると信じ込ませておいて、実のところ米国の多国籍企業の利益のために働くよう仕向けていたのである。

他们被引导相信制度改革会给整个社会带来利益,但实际上都是为了美国跨国企业的利益而工作。

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鈴木 宣弘(すずき・のぶひろ)

東京大学大学院農学生命科学研究科教授

1958年三重県生まれ。82年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。FTA 産官学共同研究会委員、食料・農業・農村政策審議会委員、財務省関税・外国為替等審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員、コーネル大学客員教授などを歴任。おもな著書に『農業消滅』(平凡社新書)、『食の戦争』(文春新書)、『悪夢の食卓』(KADOKAWA)、『農業経済学 第5版』(共著、岩波書店)などがある。
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本文作者:铃木宣弘
东京大学大学院农学生命科学研究科教授
1958年出生于三重县,1982年毕业于东京大学农学院。 他曾担任自贸区产官学联合研究委员会、食品、农业和农村地区政策委员会、财政部、海关、关税、外汇和其他交易委员会、产业结构委员会、经济贸易和工业部的成员,并担任康奈尔大学的访问教授。 他的主要出版物包括《农业消失》(平凡社新书)、《粮食战争》(文春新书)、《恶梦的餐桌》、《农业经济学 第5版》(合写,岩波书店)等。