テレビの料理番組で、中華料理の料理人は食材を切るときに「中華包丁」を使います。おなじみの光景ではありますが、中華包丁は鉄製で約400グラムと、日本の一般的な包丁の約2倍の重さがあり、大きいこともあって、すぐに使いこなすのは難しいように思います。そもそも、包丁は食材を切るための道具であり、食材が切れれば、包丁自体が大きく、重い必要はないはずです。

在电视烹饪节目中,做中国菜的厨师都用中国菜刀切食材。中国菜刀是铁制的,重量约为400克,是日本普通菜刀重量的两倍,又大,所以很难马上上手。菜刀本来就是用来切食材的,只要能切,菜刀本身就不需要很大很重。

なぜ、中華包丁はあれほどまでに大きく、重いのでしょうか。また、中国の一般家庭でも、中華包丁を使っているのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

为什么中国菜刀那么大那么重呢?还有,中国的普通家庭也使用中国菜刀吗?就此,笔者询问了纪实文学作家、中国社会形势专家青树明子。

「一器多用」でいろいろな用途に
Q.中華包丁は、いつごろから使われ始めたのですか。
青樹さん「はっきりと記録に残っているわけではありませんが、中国で製鉄が始まったのと同じ頃に中華包丁の原形が生まれ、紀元前3世紀ごろには、現在と同様の中華包丁が使われていたという説もあります」

多种用途:一器多用
Q:在中国,大约是从什么时候开始使用菜刀的?
青树:虽然没有明确的记载,但也有一种说法,在中国开始炼铁的同时期,出现中国菜刀的雏形,大约在公元前3世纪,人们就已经开始使用和现在一样的菜刀了。

Q.柳刃包丁や出刃包丁など、日本の包丁には複数の種類がありますが、中華包丁にも複数の種類があるのでしょうか。
青樹さん「中華包丁は大きく分類すると、刃の厚いもの、薄いものに分けられます。刃が厚い中華包丁は主に肉を切るとき、薄いものは野菜を切るときに使うようです。現在の中国では、中華包丁以外にも、西洋包丁や日本式の包丁も使われています」

Q:日本的菜刀有很多种类,柳刃菜刀、出刃菜刀等,那么中国的菜刀也有很多种类吗?
青树:中国菜刀大致可以分为厚刃和薄刃两种。刀刃较厚的中国菜刀主要用来切肉,而较薄的则用来切蔬菜。现在中国除了中式菜刀,也在使用西式菜刀和日式菜刀。

Q.なぜ、中華包丁はあれほどまでに大きく、重いのでしょうか。
青樹さん「中華包丁が大きく、しかも重い理由は中国の食事情に大きく関係しています。例えば、中国の普通のスーパーで、肉がパックで売られるようになったのは、ここ十数年くらいのことで、一般的には市場で大きな肉の塊で買います。ニワトリも生きたまま、丸ごと買っていたわけです。

Q:为什么中国菜刀会那么大那么重呢?
青树:这和中国的饮食状况有很大的关系。例如,在中国的普通超市里,肉分装出售是近十几年来的事情,以前通常是在市场上称斤买大块肉。鸡也是买一整只活的。

そのため、各家庭で肉をさばかねばならず、大きく、重みがある中華包丁で肉の塊を切り分けると同時に、大きな刃を横に寝かせて、肉の骨をたたき割り、解体していました。中国人の大好きなダック(アヒル)の場合、骨を粉砕しなければならず、重量のある包丁で、全身の力を用いて調理していたのです。日本や西洋のような包丁では、このような肉類の処理はできませんよね。

因此,每个家庭都必须要能剁肉,用重又大的中国菜刀切肉块,同时把大刀横放,把肉块切开,把骨头敲碎,处理家禽。以中国人最喜欢的烤鸭为例,杀一只鸭子必须粉碎骨头,要用很重的菜刀,用全身的力量来处理。像日本和西洋的菜刀是无法处理这种肉类的。

また、中華料理に『つぶす』という調理法があることとも関係しています。代表的なものは『たたきキュウリ』です。中国ではとても一般的なメニューで、キュウリをたたきつぶして、ニンニクやごま油、塩、トウガラシを混ぜる副菜ですが、重さが軽い西洋式の包丁ではキュウリが飛び散り、うまくつぶせません。重い中華包丁でないと駄目なのです。

也和中国菜里“碎”这种烹饪方法有关。典型的例子是拍黄瓜。在中国,这是一种非常常见的配菜,将黄瓜捣碎,然后加入蒜末、芝麻油、盐和辣椒,但如果用重量较轻的西式菜刀,黄瓜就会飞溅得到处都是,就“拍”不好了。必须用有重量的中华菜刀。

その他にも、中国で盛んな麺文化とも関係しています。麺を切るときは同じ太さ、同じ形に切る必要があるのですが、中華包丁のように大きく、重みがあって、刃が真っすぐだと、一気に麺が切れて、太さや形にぶれが生じません。日本でも、職人がそばを切るときは、日本式の包丁とは異なる大きな包丁を使いますが、それと同じです。

其他的,和中国的面文化也有关。切面条的时候,要把面条切成同样形状,同样粗细,凭着中国菜刀那样的大小和重量,就能一下子切好面条,且面条的粗细和形状都能保持一致。日本也一样,师傅们切荞麦面的时候,用的是和日式菜刀不一样的大菜刀。

中国人は『合理性』を重視する国民性であり、1本の包丁で食材を切るだけでなく、さまざまな調理も行えるようにしています。これを『一器多用』と呼び、中国では当たり前の発想なのです」

中国人重视所谓“合理性”,一把菜刀,不仅可以用来切食材,还可以用来制做各种各样的料理。我将这称之为“一器多用”,这在中国是非常普遍的。

Q.現在の中国の一般家庭でも、ごく普通に中華包丁を使っているのですか。
青樹さん「先述したように、現在の中国の一般家庭では、西洋包丁や日本式の包丁を使うようになりましたが、中華包丁も使っています。しかし、重い鉄のものとは限らず、ステンレス製の軽くて使いやすいものが普及しているようです。食生活の変化も影響があるのかもしれません」

Q:现在中国的普通家庭也很普通地使用中国菜刀吗?
青树:就像我之前说过的那样,现在中国的普通家庭既使用西洋菜刀和日式菜刀,也使用中国菜刀。但是,不是所有菜刀都是铁制的很重,不锈钢制的菜刀,又轻又好用,这种菜刀正在不断普及。饮食习惯的改变可能也有影响。

Q.中国人は料理を覚えるとき、中華包丁を使いこなすようになるためにどのような練習をするのですか。
青樹さん「中国人も、大きくて、重い中華包丁を最初から使いこなせるわけではありません。使いこなせるようになるために、例えば、キュウリを切って、上からつぶしたものを作る練習や、柔らかい豆腐を切る、骨のない肉を刻んで一口大にする練習などを行うようです」

Q:中国人在学做菜的时候,为了熟练使用中国菜刀,要怎样练习呢?
青树:中国人也不是一开始就能熟练使用又大又重的中国菜刀的。为了能够熟练使用,需要勤加练习,比如练习切黄瓜,练习拍黄瓜,练习切嫩豆腐,练习如何把没有骨头的肉切成适宜大小。

Q.中華包丁は今後も脈々と受け継がれていくのでしょうか。
青樹さん「中華包丁どころか、家庭料理そのものが将来的に中国の家庭から消えてしまう可能性があると思います。2015年まで続いた『一人っ子政策』の影響で、料理や洗濯など、いわゆる『家庭科的』しつけがされなくなりました。子どもは親から将来への期待を背負わされ、勉強だけをさせられるわけです。

Q:中华菜刀今后还会继续传承下去吗?
青树:别说是中国菜刀了,我认为将来连家常菜都可能会从中国的家庭中消失。由于到2015才被废止的计划生育政策,独生子女们不再接受所谓的“家务教育”,比如如何做饭和洗衣服。他们的父母对他们的未来充满期待,他们只需要学习。

そのため、大人になっても料理どころか、洗濯さえできない若者たちが増えています。これからは3食すべて外食という家庭も普通になり、中国から『おふくろの味』が消え、中華包丁の文化が消えてしまうかもしれません」

因此,越来越多的年轻人独立生活后不会做饭,甚至不会洗衣服。今后,越来越多的家庭三餐都会在外面解决,中国那“妈妈的味道”也会消失,中国菜刀的文化也会随之消失。