中国で「パナソニック」と「くまモン」の明暗を分けた、漢字表記の落とし穴

中国将“松下”“熊本熊”明确区分出来——汉字表达的陷阱


● 中国語では「酷MA萌」、中国語文化への理解不足

●官方中文翻译“酷MA萌”,是对中文文化理解不足

日本の地方自治体のなかで、もっともPRキャラクターの開発と活用に成功したのは、おそらく「くまモン」を開発した熊本県だろう。
熊本県は、2013年に、くまモンの中国語ネーミングを「「酷(クー)MA(マ)萌(モン)」と決めて、観光客らを通じて、市場を中国に広げようとした。
「酷MA萌」という当て字は、中国語で「かっこいい」を意味する「酷」、「かわいい」の「萌」、海外キャラクターと分かるようアルファベット「MA」を組み合わせたと同県は説明する。その説明に一理はあるが、発表当時から私は冷ややかに見ていた。

在日本的地方自治体中,最成功开发和活用宣传角色的恐怕要属开发“熊本熊”的熊本县吧。
熊本县在2013年决定将熊本熊的中文命名为“酷MA萌”,通过游客将市场推广到中国。
该县解释说,“酷MA萌”这个假借字在中文里是“帅”的意思“酷”、“可爱”的“萌”,为了让大家知道是海外角色,组合了字母“MA”。虽然那个说明有一定的道理,但是从发表的时候开始我就一直冷眼旁观。

理由はネーミングが極めて日本的で、中国語への理解が不足していると感じたからだ。
日本語では、コンビニエンスストアをコンビニ、パーソナルコンピューターをパソコンなどと、4音節語に短縮する文化がある。
中国語でも似たような現象が見られるが、中国語の場合は、もっとも多く使われているのが二字熟語である。だから、言語を短縮して表現する場合も、4音節語ではなく、2文字にする習慣がある。たとえば、家庭教師を「家教」、彩色液晶屏(カラー液晶パネル)を「彩屏」、政治協商会議(中国版参議院のような政治機構)を「政協」などと短縮する。

理由是命名非常日本化,对中文的理解不足。
日语中有将便利商店缩短为便利店、个人电脑缩短为PC等短音节语言的文化。
中文中也有类似的现象,但中文中使用最多的是二字熟语。因此,在缩短语言表达的情况下,他们的习惯不是4个音节语而是2个文字。例如,将家庭教师缩短为“家教”,彩色液晶屏缩短为“彩屏”,将政治协商会议(中国版参议院那样的政治机构)缩短为“政协”等。

● 中国での漢字の影響力は絶大 「広州HONDA」ではなく「広州本田」が良い理由

●中国汉字影响力巨大的原因不是“广州HONDA”而是“广州本田”

中国でよく売れている商品に、「広本」というものがある。広本とは、本田技研工業株式会社と中国の自動車会社「広州汽車」が作った合弁会社「広州本田」のことを指すものだ。
当初、ホンダ社内では、「広州HONDA」という漢字とアルファベットを組み合わせた表示にしようという声がかなりあった。しかし、私はメディアで再三、中国の広告関連と文字表示関連の法規との不整合問題などのリスクを指摘し、このような使い方・読み方に反対していた。

在中国畅销的商品中有一种叫做“广本”。广本是指本田技研工业株式会社和中国的汽车公司“广州汽车”成立的合资公司“广州本田”。
当初,本田公司内部有很多人表示要将“广州HONDA”这个汉字和字母组合在一起。但是,我在媒体上再三指出中国的广告相关和文字显示相关法规的不匹配问题等风险,反对这样的使用方法和读法。

さらに、もうひとつ「広州HONDA」という表示では懸念があった。それが、2文字に短縮するときの方向性の問題だ。「広HON」に短縮することはあり得ないから、むしろおとなしく漢字表示を使用した方がよかったのだ。結果的に、「広本」と短縮した形で落ち着いた。
日本でのホンダの使い方と同じように、この「広本」は中国では、会社名の略語である同時に、ブランド名でもある。

此外,还有一个“广州HONDA”的表达令人担忧。这就是缩短成两个字的方向性问题,因为不可能缩短为广HON”,所以不如老老实实地使用汉字表示。结果,以“广本”这一简称的方式定性下来了。
和在日本本田的使用方法一样,“广本”在中国是公司名称的缩略语,同时也是品牌名称。

以前、中古車販売店にぶら下がっている看板には、「新広本」「老広本」といった文字が書かれているのがよく見られた。広州本田の新しいタイプの車種と古い車種のことを指す。当時、広州本田の車と言えば、「アコード(中国語名は「雅閣」)」だった時代なので、新広本も老広本もアコードのことを指していた。
車種がたくさん増えた今、ひと昔前のように、ことは運べない。「広本」の次に雅閣や「飛度(フィット)」といった具体的なブランド名をつけないと、情報が伝わらなくなる。これで、ようやく新広本、老広本といった表現がだんだん見られなくなった。
漢字の本家・本元の中国ならではともいえる、漢字による影響力は、中国市場を視野に入れている日本企業にとって絶対に無視または軽視してはいけないのだ。

以前,在二手车销售店悬挂的招牌上,经常能看到写着“新广本”“老广本”等文字。指广州本田的新车型和旧车型。当时,说起广州本田的车,因为是“雅阁”的时代,所以无论是新广本还是老广本都指雅阁。
在车种增加了很多的现在,就不能像以前那样直接把广本指代成雅阁了。如果不在“广本”之后加上雅阁、“飞度”等具体的品牌名,信息就无法传递。这样一来,终于渐渐看不到新广本、老广本等表达了。
可以说这是只有汉字发源地的中国才有的汉字影响力,对于把中国市场放在眼里的日本企业来说绝对不能忽视或忽视。
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● 私が提案したパナソニックの中国語表記

●我提议的Panasonic的中文表达

もう時効だろうと思うが、2007年12月、松下電器(現・パナソニック)から秘密の依頼を受けたことがある。
当時、大企業病に苦しんでいた同社は、思い切ったブランドチェンジに踏み切った。社名をパナソニックに変え、松下電器やナショナルなどの社名やブランド名といった古い遺産を徹底的に片づける決意をしたのだ。当時この作業は、社内の機密作戦だった。
私は、その数年前に、日産自動車のティアナや、ホンダのアキュラなどの自動車ブランド名の中国語ネーミング開発を手掛けており、特にティアナを「天籟」にネーミングしたことは中国では大変な好評を得た。こうした実績が評価されたのか、松下電器から、新しい社名とブランド名のパナソニックの中国語ネーミングで天籟に匹敵できるようなものを開発してほしいという依頼を受けたのである。

我想已经过了时效了,2007年12月,我曾接受过松下电器(现在的Panasonic)的秘密委托。
当时苦于大企业病的该公司下定决心改变品牌。公司名改为Panasonic,松下电器和国家等公司名和品牌名,决心彻底清理旧遗产。当时这项工作是公司内部的机密作战。
我在那几年前,从事日产汽车的天籁,本田的讴歌等汽车品牌的中文命名开发,特别是天籁的命名在中国得到了很大的好评。或许是因为这样的业绩得到了好评,松下电器委托我帮忙开发关于新的公司名和品牌名Panasonic的中文名,希望能是一个可以与天籁匹敌的产品。

翌年の08年1月10日、松下電器の大坪文雄社長が2008年度の経営方針を説明する席で会社名を「パナソニック」に変更すると正式に発表。同時に日本国内向けに用いてきた「ナショナル」ブランドを廃し、すべてパナソニックで統一するというブランド作戦も明らかにした。同年6月の株主総会での承認を経て、同年10月1日からこの社名チェンジ作戦は実施された。
同年1月下旬、私はいくつかの中国語ネーミング案を松下電器に提出し、プレゼンテーションを行った。プレゼンに立った私は開口一番、次のような発言をした。

第二年的08年1月10日,松下电器的大坪文雄社长在说明2008年度的经营方针时正式宣布将公司名称变更为“Panasonic”。同时也明确废除当时面向日本国内使用的“National”品牌,全部改为由松下统一的品牌。经过同年6月的股东大会的批准,同年10月1日开始实施了公司名称变更作战。
同年1月下旬,我向松下电器提出了几个中文命名方案,并进行了演示。站在发表会上的我一开口就说了以下的话。

「大企業病とマイナス効果をきたす一部の古い遺産と決別する御社の並々ならぬ意志は120%理解しています。社名チェンジも支持します。そのため、自分のすべての力を絞り出して新しい社名であるパナソニックの中国語ネーミングを開発しました。しかし、漢字の本家・本元である中国の歴史と文化、そしてその市場の大きさなどをいろいろと考えた上、私は自分の開発した中国語ネーミングはしょせん、『松下電器』という4文字には勝てないと思います。中国国内だけに限定してでも、御社の社名やブランドの表示はパナソニックの英語名と同時に、松下電器という在来のブランド名もつけた方がいいと提案いたします」

“我非常理解贵公司想要和旧遗产诀别的非同寻常的意志,毕竟这些是会导致大企业病和一部分负面效果。对于公司更名也支持。为此,我使出了自己所有的力量,开发了Panasonic新公司的名称。但是,考虑到汉字的本家——中国的历史和文化,以及市场的大小等问题的基础上,我认为自己开发的中文名字终究比不上“松下电器”这四个字。即使只限于中国国内,我们也建议贵公司的公司名和品牌在保留Panasonic这一英语名的同时,也要加上松下电器这个传统品牌名”

その提案をもし採用してもらえたら、私は同社の中国語ネーミング開発関連の報酬をもらわなくてもいいという意思表示も明確にした。
おそらく私と同じ意見や提案もたくさんあっただろうが、結果として、松下電器は私の提案を採用してくださった。中国出張に行くとき、飛行機のシートや街角を飾る広告、オフィスビルの看板に、パナソニックの下に松下電器という4文字が書かれているのを目にする度、一外国人のアドバイスに謙虚に耳を傾けるパナソニックの決断と市場に真摯に立ち向かうその姿勢に感動している。

如果能采用那个提案的话,我可以不拿到该公司的中文命名开发相关的报酬。
恐怕和我有很多相同的意见和建议吧,结果松下电器采纳了我的提案。去中国出差的时候,每次看到飞机座椅、装饰街角的广告、办公楼的广告牌上都写着松下电器这四个字,他们谦虚地倾听一个外国人的建议,松下的决断和真挚地面对市场的态度让我很感动。

● スカイツリーのブランド戦略は失敗か

●天空树的品牌战略是否失败

話を冒頭のくまモンに戻そう。
昨年3月7日、熊本県はようやく6年間こだわっていた「酷MA萌」ネーミングをあっさりと捨てて、すでに中国のファンの間ですっかり定着した「熊本熊」を追認した。
県側は「熊本をより容易に連想できる名前に変えることで、認知度を高めたい」と追認の理由を明らかにしている。その「豹変」ぶりに拍手を送りたい。県側の決断力と市場に対する真摯な態度が確認できたからだ。

话题回到开头的熊本熊。
去年3月7日,熊本县轻易地丢掉了6年来一直很在意的“酷MA萌”的名字,重新使用了已经在中国粉丝之间扎根的“熊本熊”。
县方面明确了追认的理由:“想改成一个更容易让人联想到熊本的名字,以此来提高认知度。”。我想为这一变化鼓掌。因为这确认了县方面的决断力和对市场的真挚态度。

原稿作成の途中、疲れた頭をすこし休ませようとして、しばらくコーヒーを飲んだ。マンションの北側の窓の外には、スカイツリーがそびえ立っている。雨が降りそうなので、スカイツリーの上半分は雨雲に隠れている。
スカイツリーの中国語ネーミングの悪戦苦闘ぶりを思い出した。当時、登録作業が遅れに遅れたため、一番ピッタリくる「天空樹」がすでに誰かに先に登録されてしまっていた。結局、苦し紛れに登録できたのは「晴空塔」だ。
雨雲に隠れたスカイツリーを目にする度に、そのネーミングのおかしさに苦笑し、スカイツリー運営会社のそのブランディングの失敗を改めて嘆いた。グローバル経済になったいま、日本企業のブランド戦略も国境を超えた意識を持たないと、たいへん大きなリスクを冒す恐れがある。再度、警鐘を大きく鳴らしたい。

在写原稿的途中,为了让疲惫的头脑稍微休息一下,喝了一会儿咖啡。公寓北侧的窗户外面耸立着天空树。因为下雨了,天空树的上半部分隐藏在雨云里。
我想起了天空树的中文命名时,大家纠结的样子。当时,因为登记工作迟到了,最适合的“天空树”已经被别人先注册了。结果,只能强行改成“晴空塔”。
每次看到隐藏在雨云中的天空树,都会苦笑着为它命名的奇怪之处,再次感叹天空树运营公司的品牌失败。在全球化经济的今天,日本企业的品牌战略如果没有超越国境的意识,恐怕会冒出很大的风险。我想再次把警钟敲大一点。